天和と平和

別名「天鳳と平和」。鳳凰卓チャオ降段間近な元鳳南民の打ち筋を書き綴ります。

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選択

冬の弱い夕陽が控えめに差し込み、部屋をオレンジ色に染め上げた。
南三局一本場、タンヤオ三色赤のマンガンをツモりあげる。
点数申告を終え、僕は人知れず息をついた。
カズミとの点差は16300点。
オーラスは僕の親番だが、マンガンを放銃しても返らない点差だ。

思えばこれ程までの緊張は、大学入試以来かもしれない。
カズミを失いたくない一心でここまで来たが、もう大丈夫だろう。
顔を上げると、能面のような無表情でサイコロを見つめるカズミが目に入る。
後一局、此処さえ凌げばカズミとまたやり直せる。
僕は願いを込めて、サイコロを投げ入れた。


カズミの麻雀は、お世辞にも上手いとは言えないものだった。
好きな役はトイトイ、好きなことは大明槓。
例えば、こんなことがあった。

二萬二萬五萬六萬九萬九萬一筒三筒三筒二索四索六索六索

この形から、1枚目の九萬をポンするのだ。

二萬二萬五萬六萬一筒三筒三筒四索六索六索  九萬横九萬九萬

僕がそれに異論を唱えても、一向に意に介さない。

一筒一筒一筒三筒三筒六索六索  ロン六索  裏二萬二萬裏  九萬九萬横九萬九萬

そして、こんな形で和了り切ってしまうのだ。
少し上気したカズミの笑顔の前に、僕はいつも言葉を失ってしまう。
明らかに無理な仕掛けが多いのに、和了りは少なくない。
そんな不思議な麻雀だった。


幸せな生活に変化が訪れたのは、夏の終わりだった。
今となっては、どちらが原因なのか分からない。
大学での研究が忙しく、カズミと会う時間が少なくなり、カズミも僕以外の友人と遊ぶことが増えた。
二人の結びつきが希薄になり、これまでの関係に亀裂が生まれた。
カズミは、僕が時間を作らないせいだと言い、僕はカズミの浮気を疑った。
カズミのことは好きだったが、僕が実験で忙しい間に遊び歩く、カズミの無神経さには疲れ果てていた。
そのせいか、たまのデートも以前のように素直に楽しめなくなっていった。

カズミが関係の清算を提案するのは必然だったのか。
僕は必死にカズミを引き止めた。
そして、今こうして卓を囲んでいる。

カズミにとっては、僕と打つ最後の麻雀のつもりかもしれない。
でも、僕は終わらせる気はさらさらなかった。
この麻雀でトップが取れたら、カズミとやり直せる、そう信じていた。


南四局、6巡目。
ドラは四萬
カズミは静かに卓上の牌を横に曲げた。

七萬東七索八索西六筒横

カズミのリーチを受けての一発目、僕の手牌はこんな具合だった。

三萬三萬三萬四萬五萬八萬八萬三筒四筒五筒二索三索四索  ツモ二萬

見るからに変則的な河。
筒子のホンイツが本線だろうか。
しかし、僕の手もテンパイだ。
三萬が壁になっているし、二萬は安全牌だろう。
ツモ切ろうとした刹那、ふとカズミの笑顔が頭を過ぎった。

――三萬を切ってみようか?

三萬を切ろうと思った理由は、一つ。
三萬は、シャンポン待ち、単騎待ちに刺さる可能性がない、ということである。
つまり、三萬で放銃して、トイトイがつくことはない。
そう、カズミの好きなトイトイに。

しかし、その迷いは一瞬だった。
何を馬鹿な。
三萬六萬は十分考えられるじゃないか。
愚かな考えを払拭しようと、叩きつけるようにして二萬を河に投げ捨てた。


その瞬間、透き通った声が、卓上に広がった。


二萬四萬四萬四萬九萬九萬九萬五筒六筒七筒九索九索九索


リーチ一発三暗刻ドラ3。
ハネ満。

呆然としていた僕の目が捉えていたのは、悲しそうに目を伏せたカズミの顔だけだった。
カズミはおもむろに立ち上がると、外へ向かって歩き始める。
僕は、ただその背中を見送ることしかできなかった。


やはり、先に裏切ったのは僕だったのだ。
自分の都合を優先し、カズミを信じることを忘れていた。

もし、彼女のことを信じ抜けたのならば――
違った未来が、あったのだろうか。

目の前には、終局のまま放置された麻雀牌。
その答えを求めるように、僕は王牌へ手を伸ばした。

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